9 今際の際に ページ10
「え、なに、いって……いや、いやだ。やだ、はなして」
「怖いん？大丈夫やで！！包丁で刺すのもええなぁって思ったんやけど、それやと死ぬ時間に差が出来てまいそうやん。溺死も魅力的やけど、水飲んで死ぬのは苦しいし…薬は片方が失敗して生き残ってまったら大変やろ？だからおれ、とっておきの死に方思いついてん！一瞬で死ねるようなやつやから、痛くないし手ェ繋いで死ぬんやから怖さも半減するやろ？不安もあるかもしれんけど、おれとAさんなら大丈夫！2人なら大丈夫やで！」
「ひっ、やだっやだぁ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい！！！！もうしません、もういじめない！！ごめんなさ、死にたくない、死にたくないです、ぅ、あ。っひ、ぅ、ごめなさ、ぁ」
「んーん、大丈夫。いきなりでびっくりしたよな。でもこういう、なんてゆーか、ちょっと恥ずいんやけどぷろぽーず的な言葉ってサプライズとかで急に言うもんやろ？だから、びっくりさせてまったかも。…ごめんね、びっくりした？大丈夫、大丈夫やで」
いきなりで動揺しているAさんを抱えて保健室の扉を勢いよく開けた。先生に叱られるかも、とか、一瞬肝を冷やしたけれど、これから2人で死ぬんだと思うとなんだかどうでも良く思えて笑った。
思ったよりも腕の中で暴れるAさんの唇に無理矢理キスをしてそのまま階段を登ろうとした。舌を勢いよく噛まれたもんだからびっくりしてバランスを崩しかけて少し焦った。飼い犬に手を噛まれた気分ってやつやろうか、まあ犬はどちらかと言えばおれなんやけど。そんな抵抗も虚しく逃げ出す術すら見出せないAさんが、なんだか酷く滑稽でそれ故可愛らしく思えた。
生徒会、とはいえただの女の子が野球部の男の力に勝てるわけもないのに、こういう所は諦めの悪い馬鹿さが出ていると思ってしまう。しかし、馬鹿な子ほど可愛いとはこのことか。痘痕も靨。いまはそれすらも愛おしく思える。
「来世も一緒にいよーな」
なんて言えば、諦めからかぐったりとおれの腕に身を委ねて力なく頷いたAさんを心の底から好きだと思う。
屋上。
もちろん、いうまでもなく、おれとAの2人きり。
Aの手にしっかりと指を絡めて、頭を包み込むようにして抱きしめて、それからめいっぱい口を付けてAの名前を呼んだ。
「A！大好きやで、本当、心の底から愛しとる。来世でも絶対に見つけ出すから。好きやで、A」
暗転。
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雨蛙躑躅(プロフ) - ハトポッポさん» コメントありがとうございます。己の好きを詰め込んだに過ぎないのですが、そんな風に温かいお言葉をいただけて雨蛙はこれ以上ないほどの幸せものですね！読んでくれてありがとう！これからも雨蛙をよろしくお願いします！！ (4月14日 13時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
ハトポッポ - 最高です。苦しくなるような美しい世界感が大好きです。 (4月14日 0時) (レス) id: c3e1e2758f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年3月25日 20時
